適切な後遺障害等級認定を受ける方法について弁護士が解説

労災事故で怪我を負い、治療を続けても事故前の状態に戻らず後遺障害が残った状態で症状固定と診断された場合、労働基準監督署へ障害(補償)給付の申請を行い、後遺障害等級の認定を受けることで、等級に応じた補償を受けることができます。適切な補償を受けるには、治療から申請の手続きに至るまで、理解しておくべきポイントがありますので、以下で詳しくご紹介します。

適切な後遺障害等級認定を受ける方法

自己判断で治療をやめず症状固定まで治療を継続する

労災事故で怪我を負った場合、まずは主治医の治療方針を確認し、主治医の指示に従って症状固定まで継続して治療を受けるようにしてください。忙しいから通院できない、通院しても良くならないといった理由で通院を怠るようなことは避けてください。必要な治療を受けていないと、怪我の症状が軽いと判断され、後遺障害等級認定を受けにくくなります。 また、必要な検査はきちんと受けるようにしてください。CTやMRI、レントゲンや心電図検査など、怪我の状態や原因について客観的な指標となりうる検査を受けておくことで、後遺障害等級認定の際、適切な認定を受けられる可能性が高まります。

後遺障害が持病等による影響を受けていないことを証明する

労災事故による怪我を負った場合、その怪我が労災を原因とするものであることを証明することも重要となります。後遺障害にあたる症状が残ったとしても、その症状が労災と関係のないものと判断されると後遺障害等級認定を受けることができません。 特に問題となるのが、被災労働者に持病や既往症があるケースです。後遺障害の原因が持病にあると判断されれば後遺障害等級認定を受けることができなくなります。そこで、持病や既往症をお持ちの方は、後遺障害が持病等と関係があるのかどうかについて、主治医の見解を伺いながら、関係がない、または多少関係はあるが後遺障害に持病の影響は少ないなど、事前にそのことを裏付ける説明を医師から受け、労働基準監督署に説明できるよう準備しておくことが必要です。

労働者災害補償保健診断書の作成を主治医に依頼する

主治医より症状固定の診断を受けたら、所定の「労働者災害補償保険診断書」を主治医に渡し、これに後遺障害の内容を記入してもらい、必要に応じてレントゲンやCT、MRIなどの画像も受け取ってください。 なお、診断書料を労基署に請求する場合、療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)または、療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)を提出する準備も行います。ただし、労災保険で給付される診断書料は4,000円までであり、この金額を超える診断書料の差額は自己負担となりますのでご注意ください。

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後遺障害等級認定には医師の診断書の記載が重要

後遺障害の認定は、提出先の労働基準監督署長が、主治医の作成した後遺障害診断書の内容を前提に行うため、医師が作成する診断書の内容は非常に重要です。したがって、診断書の内容に不足がないか、労基署に提出する前に、被災労働者やご家族の方においてもよく確認する必要があります。 なお、会社側が労災申請に協力的であれば、会社が提携している社労士や労務管理担当者と内容の確認をしながら診断書の記載や関連資料に問題がないかをチェックできますが、万一会社が労災申請に非協力的なときは、労災に詳しい弁護士や専門家に相談することも検討してください。 後遺障害等級が一つ違うだけで受けられる補償内容が大きく変わりますので、診断書の記載内容が非常に重要であることを認識しておきましょう。

診断書の重要性に対する認識が乏しい医師には注意が必要

診断書の記入は主治医に依頼することになりますが、医師によっては作成に消極的な方もいます。医師からすると、後遺障害が残ったとの診断書を作成することは、治療したにも関わらず治らなかったことを認めることと同義であるともいえるため、稀なケースではありますが、診断書の作成自体を拒否する医師もおられます。 しかし、医師が診断書の作成依頼を拒否することは、正当な理由がない限り、医師法(医師法第十九条の二項)で禁じられているため、被災労働者が通院を怠っていたなどの被災労働者側の問題がなければ、医師には原則作成する義務があります。 とはいえ、法律を提示して医師を問い詰めると、医師との信頼関係が失われ今後の治療に影響を及ぼすおそれもありますし、作成いただけたとしても内容を補足していただきたい場合等に再度作成依頼する際に、対応していただけなくなるおそれもあります。 したがって、診断書の重要性について丁寧に説明して作成していただけるよう促していくことが大切です。それでも難しい場合は病院を変えて治療を受け、診断書の作成をお願いすることも検討します。

労働基準監督署へ障害(補償)給付の申請をする

労働者災害補償保健診断書や関係資料の準備が整ったら、管轄の労働基準監督署長に障害補償給付支給請求書(様式第10号)または、障害給付支給請求書(様式第16号の7)とあわせて提出することになります。 請求書には、事業所が労災事故の発生を証明する記入欄があり、通常は会社側が記載することになっていますが、万一会社が労災認定に非協力的な場合は空欄のままでも申請できます。担当者が空欄の理由を把握しやすいように、「会社が労災を認めないため未記入」といった具合に記載してもかまいません。 なお、給付の申請には時効があり、傷病が治った日(症状固定日)の翌日から5年経過すると請求権が消滅するので注意してください。

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自己申立書の提出

労災で障害補償給付をする場合、障害補償給付支給請求書の提出と併せて自己申立書(障害の状態に関する申立書)という書類を提出することになります。 この書類では、被災労働者自身が怪我の症状に関する記載をし、労働基準監督署に対し、自身の状況を正確に伝える必要があります。仕事や日常生活において感じる不自由な点や、怪我による痛みの状況、身体の部位に可動域の制限がどの程度発生しているかなど、詳しく記載するようにしてください。

労働基準監督署の調査員との面談

障害補償給付支給請求書を労働基準監督署に提出すると、労基署の調査員による面談が行われます。面談日時の調整については、後日連絡があります。

後遺障害等級の審査・認定

労働基準監督署は、提出された障害補償給付支給請求書をもとに、事故内容や被災労働者の後遺障害の内容などについて調査を行います。後遺障害の認定基準に該当し、労働災害と後遺障害との間の因果関係が明らかになれば後遺障害の等級認定を受けることができ、等級に応じた補償を受けることができます。

後遺障害が認められない場合について

後遺障害認定基準に該当しない場合や、労働災害と後遺障害との間に因果関係がないと判断された場合には、後遺障害等級非該当との判断を受けることになります。非該当となれば、障害(補償)給付も受けられません。 また、後遺障害等級が認められても、想定した等級より低い場合もあります。

このような場合において、労基署の認定に納得ができないのであれば、認定通知を受け取った日の翌日から3か月以内に労働者災害補償保険審査官へ審査請求を申し立てることで、再度審査を受けることができます。 手続きとしては、各都道府県の労働局に審査請求書を提出することで再度審査を受けることができますが、最初の認定理由を覆す根拠や証拠を示す必要があるため、認定結果を覆すことは必ずしも容易ではありません。 なお、審査請求で内容が変わらなかった場合は、審査請求の通知を受け取った翌日から2か月以内に労働保険審査会に対して再審査請求することができます。ここでも結果が変わらない場合は、再審査の決定がでてから6か月以内に訴訟を申し立て、裁判所の判断に委ねることとなります。

審査請求での決定に納得できない場合、再審査請求をせずに直接訴訟を申し立てることもできます。

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後遺障害等級認定の基準について理解する

後遺障害は、労働者災害補償保険法施行規則によって1級から14級までの等級が定められており、第1級が最も重く、第14級が最も低い障害となります。労働能力喪失率(後遺障害による労働能力がどの程度低下したのかを数値化したもの)を基に、後遺障害の状態に応じた等級の区分けがされており、それぞれの等級ごとに補償額が決まっています。 申請にあたっては、労災における後遺障害等級認定基準について詳しく理解している必要があります。先ほどご説明しました通り、等級が一つ違うだけで補償内容が大きく変わり、特に7級と8級でその違いが顕著です。すなわち、1〜7級は毎年年金を受け取ることができますが、8〜14級では一時金の支給のみとなるからです。 後遺障害の申請、認定にあたっては、治療期間中、主治医と意思疎通を図りながら診断書作成の対応を検討することや、認定基準と後遺障害の内容を照らし合わせ、適切な診断書を作成することが重要となります。こうした判断には専門的な知識が必要であるため、専門家にアドバイスを求めることが大切です。 労災事故に詳しい弁護士はもちろんのこと、労災における後遺障害等級認定基準が、交通事故の後遺障害認定基準とほぼ同じであることから、交通事故で後遺障害等級認定に携わった経験が豊富であるなど、1級から14級までそれぞれの基準を熟知している弁護士や専門家に相談されることをおすすめします。

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